貉(むじな)
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妖火 (むじな) 妖火

 貉の化けることは狐狸に劣らず――

 ある辻堂に年を経た貉が僧に化け住み着いた。毎日の勤めを怠らなかったが、食後についうとうとし、我を忘れて尾を出してしまったという。

 『和漢三才図会』巻三十八には「睡眠を好み、人が近づいても目を覚まさない」とあるが、狐狸と並んで人に化ける話が[貉]には多い。例えば『御伽百物語』(白梅園)の巻一に収録されている『狢のたゝり』であったり、『怪談』(小泉八雲)の『むじな』であったり。前者は豊後国(大分県)の話で、姥山に住む貉が僧に化け、日田の智円という僧に挑む話で、後者は[のっぺらぼう]で紹介した、いわゆる「再度の怪」である。

 貉で最も有名なのが、佐渡の総大将である二つ山の二つ岩団三郎だろう。宮崎駿の映画『平成狸合戦ぽんぽこ』には狸として登場している。この団三郎という貉は、金山の人夫に化けて働いたり、また盗みをしたりして、とうとう金貸しまでするようになったという。
 あるとき伊勢参りに出掛けた帰路の途中、団三郎は加賀国(石川県)で狐に逢った。この狐は「佐渡の団三郎と化け比べがしたい」らしく、本人(?)と知らず、団三郎に向かって悪口を並べ立てた。団三郎は腹を立て「それならまずわしと勝負しよう」といい「加賀の殿様行列に化けるから、その奥女中に化けて見よ」と狐に提案した。
 そしてしばらくすると行列が道を賑わしはじめ、狐も奥女中に化け、行列に紛れ込んだ。そして「すごいねえ、流石に佐渡の貉だ。そろそろもとの貉に戻りなよ」などと馴れ馴れしく駕籠に話し掛け、尻尾をダラリと垂らすと、お付きの武士たちに斬られそうになった。
 そう、その行列は本物で、団三郎はその街道を行列が通ることを知っていて利用したのである。以後、狐の一族は佐渡へ渡ることを止めたという逸話が残っている。

 しかし実のところ貉は生物学上、狸と同類であるということなのだが、これは明治初期に起こった「狸裁判」も議論となった。これは狸が禁猟となった折り、さて貉はどうなのだ、ということに端を発している。
 そもそも貉とは古来より本邦(主に東日本)で使われていた呼び名で、後に中国から伝来した狸が知れ渡ることになり、呼び名が錯綜したらしい。他に似た動物として、猯(まみ)という穴熊の一種とも混乱したらしい。

 わかってしまうとつまらないが、わからない怖さや面白さというのは、今の世ではなかなか味わえない心持ちなのかも知れない。

(文責:カメヤマ)

・ 参考文献:今昔画図続百鬼,幻想世界の住人たちIV
・ 属性:
・ 出現地区:関東地方,中部地方,千葉県,神奈川県,新潟県,岐阜県,
・ 小説など:『むじな』小泉八雲(「怪談」)
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2000.7.21 22:43